なんでおいらは今、海をたゆたっているんだろう・・・

そう、ひとりごちたつもりだったが、すぐ隣のメグミに聞こえていたらしく

「なんで〜〜!!海、楽しいじゃん!!」

と必要のない返事が帰ってきた。

「おかしい・・・通い婚しているはずだったのに・・・または爆睡しているはずだったのに・・・何故睡眠不足のこのおいらが、海にいるんだ?なんでなんだ?しかも、泳がないと宣言したのに、なぜ海に入ってるんだ?今日は昼から通い婚じゃなかったか?今何時だったっけ?たしかもう5時近いはず・・・でも、まだ来てから30分と立ってないぞ・・・」

今度は彼女に聞こえないように口に出さず頭の中だけでひとりごちてみたが、何故か彼女からはまたおいらには必要のない返事が・・・。

「なんで〜〜〜!海、楽しいじゃん!沖へ!!沖へいこう!!!!」

さすが、異星人・・・脳波をキャッチするらしい。

ひとりごちるのをあきらめて、今度は彼女に聞こえるように大声で言う。

「沖へいくなら1人でいけ〜〜〜!!おれは寝るぞ!日焼けするぞ!!だから、1人で遊んでなさい。海なしマドリレーニャ(Madrid人)と一緒に遊ぶつもりはない!おいらは火曜日も木曜日もきてるんだ!!!っていうか、寝る!あでう!!」

「沖へ!!!沖へ!!!」

さすが、異星人・・・今度は逆に必要な返事が返ってこない

彼女の星だと、大声だとささやき声になるらしい。きっと大気の密度が違うのだろう。きっと一酸化炭素が99%の星なのだろう。行きたくない。

その後、おいらは何度となく「帰る!帰る!!茣蓙の上で寝る!おいらのことはほっといてくれ!」と叫んでみたが、彼女はその都度「沖へ!沖へ!」としか返してこなかった。


今回、海にくることになったのは、彼女がやってきた時同様、本当に突然であった。

昨夜のCenaのあと、踊るのをやめた5時頃・・・タカシ君と彼女、そしておいらの3人はとりとめのない会話をしていた。彼女はもう眠そうだったが、出し抜けにこんなことを言い出した。

「明日海に行こう!」
タ「ええ???!!」
お「え??」

お「あ・・・明日は・・・昼間っからBodegaで一杯といってたじゃないか!」
タ「夕方6時に帰るんじゃなかったの?」
メ「バスの時間は2時間前までだったら変更できるから大丈夫!」

何が大丈夫なんだろう?明日海に行くなら、こんな時間まで起きていたらいけないのではなだろうか?スペインといえども、そろそろ空も白み始めるという時間に出されるプランではないことは確実だった。

お「わかった・・・マドリレーニョは海を恋しがるから、そこは100歩譲ってOKしよう。」
タ「ええ〜〜!!マジで!!!ボクはは無理や・・・・。マサキ君は優しいな〜〜〜ホンマええ人やな〜」
お「だけど・・・朝早起きしてよ!11時くらいに起きて、バスのチケットを変更してきてね。おいらはその間寝てるから。で、2時くらいにここをでて、El Salerに行く!Vale?」
タ「ボクも・・・起きれたらいくよ・・・起きれたらね。多分無理やと思うけど・・・」

そんな無謀なプランを立ててうちらは解散した。


そして、今朝・・・。

11時の目覚ましで起きたのは珍しくもおいらだった。昨夜寝たのは7時近いというのに・・・・。人が泊まってるのもあって、もしかして眠りが浅かったのかもしれない。

ベッドから出ないで、声だけで彼女を起こす。

お「11時だよ!起きろ!起きろ!」
メ「・・・・・」

ただのしかばねのようだ

昨夜、遅かったからまぁ〜無理もない。最悪12時になっても、2時には海に迎えるだろう。そう思って、強引には起こさなかった。

12時に二度目の目覚ましがなった。

お「おい12時だよ!起きろ!起きろ!チケット買いにいけ!」
メ「う〜ん・・・・今何時?」
お「だから、12時だってばさ」
メ「・・・・」

またただのしかばねになったようだ

その後彼女は1分おきくらいに時間を聞いてきた。

メ「今何時?」
お「12時」


メ「今何時?」
お「12時」


メ「今何時?」
お「12時」


まったくベッドから出る気配がないので、無理矢理起こさず、このまま寝かせて海ではなく、最初の予定通り通い婚にしようと、このあたりから考え始めた。

12時40分・・・流石にもう起きてもいい時間だろう・・・と思って、もう一度起こす。

お「起きろ!12時40分やで〜〜!」
メ「う〜ん・・・わかった・・・1時に起きる〜」
お「!!!!!???」

「あと5分〜」とかじゃなくって、あと20分も寝るんかい!!!!そんなん、もう一度深い眠りにはいるには十分な時間じゃないか!!

おいらも一度寝たら、満足するまで起きないタイプで、かなりの寝ぼすけだが、予定があるときとかは流石に頑張って起きる。

まさか、この世に・・・おいら以上の「寝ぼすけ」がいようとは思わなんだ・・・。


結局彼女がバスのチケットを買いに行ったのは、本来なら海に向けて出発するはずの2時であった。

そして、バスのチケットを変更して、帰ってきたのは3時半

バスは30分置きなので、次のバスは4時過ぎとなる。

おいらはさり気なく海を断念するように促す。

「今からだと4時10分くらいのバスじゃないといけないのね。で、着くのは4時半でしょ?今日、海のあと通い婚Bodegaに行くなら、7時半には向こうをでないといけないわけよ。El Salerには3時間しかいられないのね。シャワー浴びたり、帰り支度もしなくちゃいけないから、実質は2時間半いられるかいられないかだね〜。どうする???」

我ながら完璧な促し方だ・・・

もう帰ってくる答えは一つ・・・「そうだね〜それじゃ〜ね〜。やっぱ今日はやめておこうか〜」だ。

が、彼女は異星人・・・帰ってきた答えは、もう見事なほどおいらの希望とは逆のものだった。

「3時間か〜・・・・じゃ、行こうか!!!!」

えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!



相変わらず、「沖へ!沖へ!」を繰り返す彼女。

おいらは、持ってきた宮本輝の「愉楽の園」を茣蓙の上で寝転がって読みたい気分でいっぱいだった。

おいらをいっこうに放そうとしない彼女。あれだけ寝ボスケだったにもかかわらず、海では一転、元気がありあまっている感じだ。これでは、とてもじゃないけど、おいらの「愉楽の園」には戻れそうもない。

一計を案じてみる。

そうだ・・・疲れさせればいいんじゃないか・・・

簡単なことじゃないか・・・そうだよ・・・簡単なことじゃないか・・・

「よ〜し、じゃ〜遊ぶか!!!」

と叫び、腕と手のひらを使って、津波のように彼女にバシャバシャとかけまくる。彼女には目を開けさせる隙など与えないくらい、連続でかけまくる。

そして、彼女が望んでいたとおり、少し沖まで引っ張っていき、ドロップキックをお見舞いしてから、頭を抑えて・・・・

沈める

ちょっと大きめの波がやってくると同時に・・・

沈める

まぁ、いうたら拷問 水攻めですな。


「こ、殺される!!!」


今度はおいらが異星人・・・彼女の台詞は「た、楽しい!」と変換された。


おいらの作戦は成功した。

10分もしないうちに・・・

「ちょ、ちょっと・・・休憩・・・疲れた!上がろう!」

おいらは「愉楽の園」に戻ってきた。

茣蓙に寝転がり、寝る準備を始める。そして、なんとも心地よい膜に覆われ始めた時・・・・

メ「ねぇねぇ・・・背中・・・」
お「は?」
メ「日焼け防止クリーム・・・」
お「自分で塗れ!」
メ「だって、届かないもん」
お「しらん!」

本来だったら・・・女の子に背中にクリーム塗ってといわれたら、男は喜々とするべきことなんだろう

が、そのときは違う。

そんな余裕はない。寝たい。心地よい膜に覆われたい。そんな思い出いっぱいだった。

無視して横になりつづけるおいらではあったが・・・

メ「ねぇねぇ〜背中ぁぁぁぁ!!!!」
メ「届かない・・・届かない・・・」

だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

ナプニョン!!!!

お「わかったわかった!塗ればいいんだろ!塗れば!」
お「ほれ!!!!」

バチン!!!

メ「痛い!!!!」
お「文句言うでない。伸ばしてるんだから・・・」
メ「痛い痛い・・・」
お「背中の下は届くだろ・・・そこは自分で塗れ・・・クリームはつけてやるから」

ガリガリガリ!!!(チューブの先でひっかいてしまった)

メ「痛いぃぃぃ!!!!!!!」
お「・・・・ほれ!塗れ塗れ!」(すまんと思ったが無言)


なんか、文章で書くとイチャついてるバカップルのように見えなくもないが、そんな雰囲気はどこにもない。いうたら、おざなり


クリームを塗り終わるとおいらは、再び茣蓙の上に寝転がり・・・そして知らない間に眠りについていた。

起きたのは6時40分だった。1時間くらい寝たんだろうか・・・。

予定ではこのあと7時10分くらいに帰り支度をはじめ、シャワーを浴び、着替え、そして7時半過ぎくらいにくるであろうバスでValenciaに帰り、PISOに戻り、荷物を置き、Ricoricでケバブを食べ(彼女が食べたがっていた)、すぐ側の通い婚で、タカシ君たちと合流する感じでいた。

そして、実際予定通り、7時半にはバス停のベンチにうちらは座っていた。

「完璧だ・・・PERFECTOだ・・・」とおいらは自分のプランの完璧さを彼女に誇るためにそういった。



El Saler行きのバスを待っている時にこんな会話をした。

お「ホント突然くるんだもな〜。予定外だよ〜!」
メ「知ってる?「突然の出来事」によって、何かが変わるんだよ!」
お「何が変わる?」
メ「たとえば、右に曲がろうと思って歩いてるところを、突然、左に曲がってみると、何かが変わるの。」
お「あ〜、波動関数が発散されるのね」

おいらは先日、読み返したばかりの小林泰三の「酔歩する男」の単語を使ってみた。

その小説によると、箱の中身は開けてみるまで何がはいっているかわからないのだ。いろんな可能性が詰まっているのだ。で、開けた瞬間、波動関数が収束して、可能性の中の1つが決定する。箱の中身を知っている人に聞いてしまっても、それは同じことで、収束してしまう。中から異星人がでてくる可能性も、お金が出てくる可能性も、チョコレートがでてくる可能性もありわけだ。

フォーレスト・ガンプにも同じ台詞があったが、あれはそういうことなんだろう。

おいらの場合、異星人を出してしまい、それを収束させてしまったが・・・。

お「なるほどね・・・じゃ〜さ〜・・・」
メ「うん」
お「ここで突然「海に行かない」なんてのもありだね!なんか変わりそう!それやってみようか?」
メ「・・・・」



バスが30分まっても来ないことに気づいたとき、そのときの会話を思い出した。

やはり・・・海にはきたことで何かが変わってしまったのだ!

と。

結局1時間まってもバスは来なかった。バスがないわけではない。時刻表では全然ある時間だから。

すでに時計の針は8時半を指していた。

うちらは、El SalerのPlayaのバス停ではなく、10分弱歩いたところにある、大通り(それほど大きくはないが、メイン通り)のバス停まで歩くことにする。バスの中には Playaまでこないものがあるが、そのバス停ならば、全部のバスが泊まるからだ。

原因はすぐにわかった。

事故であった。消防車が通り、救急車が通り、そして、Valencia行きとは反対車線は大渋滞

El SalerやAlbufera(湖)に行く黄色いバスは、循環しているバスなので、反対車線の渋滞でも大いに影響があるのだ。循環できないからだ。

結局うちらはバスを1時間半待つ羽目になった。

海にいた時間が2時間半。バスを待つ時間が1時間半(行きの待ち時間をいれれば2時間)

うなだれるのも致し方ない。

おいらはこれを、すべてファラオの呪いならぬ、メグミの呪いと呼んだ。

彼女の呪いによって、波動関数の収束か、すべて悪い方にいってしまったのだ。

呪われたおいら
呪われたPlaya
呪われたバス
呪われた街
呪われたBodega
呪われたRicoric

そして、呪われた月曜日

Valenciaについたのは9時20分。Bodegaが閉まる40分前。

予定なら、Ricoricでケバブを食べ、少し遅れてBodegaに行き、タカシ君たちと合流して・・・。

バスをおりると小走りでPISOに戻り、彼女の荷物を取り、小走りでBodegaに向かう。RicoricはBodegaあとにする。なぜなら彼らが待っていたから。


彼女の呪いはタカシ君にまで届いていた。

彼は8時からBodegaにいたらしい。1人で・・・。危うく帰るところであったらしい。

小一時間Bodegaで酒を飲み・・・Ricoricでケバブを食べる。

おいらはメグミさんにおごって貰う。

おいらは、当然の権利として、今まで食べたことのないQueso入りケバブ(3.5euros。Normalは3euros)とCervezaを注文。

その後、彼女をPlz Canovasのタクシー乗り場まで送っていき、手を振り別れる。

うちら4人(タカシ、フサエ、大興、おいら)は、OpencorでRonを割る用のコーラとアイス(チョコバナナ)を買い、フサエ邸へ。彼女の大事なRonを皆で飲み尽くすため。


そして、例のごとく・・・・朝日を見るまで話し続けた。


追記
一昨日タカシ君と会ったときに、何故あんなに疲れた顔をしていたか、よ〜〜〜〜〜〜〜〜くわかった。

追記2
先日、フサエちゃんたちに言った「今週は月曜日からひきこもるから、君たちとは遊んであげられない」という自分の台詞を思い出した。


メグミに呪いあれ〜〜!