ここ・・・どこですか?

「すいません・・・ここどこですか?」
「三浦海岸です」
「み、三浦海岸???」
「ええ。三浦海岸」
「三浦海岸って、あの三浦にある三浦海岸ですよね?」
「ええ。その三浦海岸です。」
「これって何線ですか?」
京急です」
京急?」
「ええ」
「ちなみに戻る電車は?」
「もう全線終了しております。」
「ですよね。」

改札をで、1分後

「えええええ!!!なんで!!!!」
「なんでなんでなんでなんでなんで?」
「なんで京急に乗ってるの?」
「っていうか、浅草橋にいたのに、何故三浦?」
「ペリー来航やん。浦賀近いやん。」
「っていうか、これって物理的にありうるのか?」
「もしや夢遊病のように電車乗り間違えた?」
「ええ〜〜!三浦海岸?」
「どうするの、俺?」

もう頭の中「?」でいっぱい。
全く持って意味わからじ。
事の経過が読めない。
しばしパニック。

駅前のだだっ広い広場をとりあえずウロウロウロウログルグルグルグルグルして同じことを小声で復唱。

とりあえず落ち着くことにする。

「まて、落ち着け。トランキーロ、トランキーロ」
「まず、今何時?」
「よし、まだ12時半」
「で、どこまで覚えてる?」
「浅草橋お店を出たのは11時くらい」
「あまり呑んでないから酔っぱらってはなかった。うん」
「長尾に仙台のこときこうと思って電話したら何故か女の子の声。自分で電話かけたのに『すいません・・・どちらさま?』って聞く羽目になった。真央ちゃんだった。「な行」で押し間違えたことが判明。覚えてる。うん。」
「で、ちゃんと都営浅草線にのったよね。うん。」
「で、本をカバンから出した。風の影」
「で、読んでるうちに降りるはずの日本橋過ぎた。」
「で、路線図みたら、昔出勤で良く使った「中延」を発見。」
「で、そこで降りて大井町線使って帰ることにした。うん」
「で、途中から座れたから座ったと」
「で、寝て起きたら三浦海岸・・・と」
「!!!!!!!!」
「やっぱ全然わかんな〜い!」

路線図には全くもって詳しくないので、都営浅草線京急がつながってるなんて夢にも思わず。とにかく「三浦海岸」・・・そう、おいらが良くデートやドライブで使う観音崎のある・・・っていう響きがすげ〜恐ろしい。ものすごく遠いところにきてしまった気がする。

再び、周章狼狽

向こうから人影が近づいてくる。

「どこまで?タクシー乗る?」
「いえ・・・いいです。ホテルとか探します」
「この辺、ホテルとかないよ。」
「そうなんですか・・・」
「お客さんみたいな人、ここ多いんだよね〜」
「そ、そうなんですか?」
「まぁ、じゃ、がんばってね」
「・・・・(がんばってねって・・・)」

また一人ぽつね〜んと取り残される。

選べるカードはいくつもない。

「ホテル」
「長尾」
「パパン」

まず最後のパパンは最終手段。自業自得で迷惑はかけたくない。となると、やはり長尾。ここは持ちつ持たれつ。三浦海岸まで来てくれたら、すべてをチャラにしてあげよう。

電話をかけながら、とりあえず駅の周辺を歩いてみる。

長尾・・・でない。
三浦海岸・・・なにもない。

シクシクシク。

なんとしてでも連絡が取りたいので、せっぱ詰まったメールを送る。

「マジで助けて・・・ヤバイ」

シンプルでいて、なおかつ現況を表現するのに最高の一言。暗闇の中で一人自画自賛

ウロウロしていると、おいらの横にタクシーが止まり、ドアが自動的に開いた。

「安くするからさ〜のっていきなよ〜」

さっき声をかけられたタクシーの運ちゃんであった。

「いや、ものすごく遠いんですよ」
「どこ?」
「『UTIEL』ってとこです」
(※「UTIEL」日記用語。おいらのすむ街のこと)
「う〜ん」
「ちなみに、いくらくらいなんですか?」
「えっとね〜金沢文庫までで一万円かな」
「・・・論外です」(アホか!)
「そっか〜。でも、この辺ホント何もないよ?まぁ、じゃ、がんばってね〜。」
「・・・・」


しばらくふらついてみたが、タクシーの運ちゃんが言ったとおり、三浦海岸には見事なほどなにもなかった。そして、長尾からも返事はない。タクシーに乗る金もない。

「も、申し訳ない」

そう、つぶやき自宅に電話。

「もしもし・・・おいら」
「どしたの?」
「いや、寝過ごしてしまいまして・・・」
「どこにいるの〜。あんたまた〜」
「み、三浦海岸・・・」
「えええっ!三浦海岸??なんでそんなとこに」
「いやわからないの。浅草でスペイン料理食べてたはずなんだけど・・・三浦海岸」
「ちょっとあたしじゃ場所わかんないから、お父さんおこしてみるからちょっと待ってなさい」
「いや、おこすんだったらいいよ」
「「いい」って、あんたどうすんのよ、そんな何もないところで・・・」
「何もないって知ってるんだ・・・」
「知らないけど、予想つくわよ。」
「タクシーで帰れる距離でもないし・・・金沢文庫まで一万円とかっていってたからね〜」
「まぁ、いいから、今聞いてくるから待ってなさい」

ブチッ

「え?切れた?切られた?待ってなさいっていったよね・・・」

かけ直す。

「もしもし、切れちゃったの?」
「なにいってんのよ。切ったの。いいから、ちょっと待ってなさいって!」

ブチッ

「・・・・」


ぼ〜っと待っていると電話が鳴る。

「お、もしや帰れるのか・・・おいら・・・」

と思ったら、長尾だった。

「よ〜どうしたよ?」
「今ね、三浦海岸なの。浅草にいたはずなのに」
「あ〜はいはい。それよくあるらしいからね」
「そうなのか・・・」
「その辺なんもないだろ?」
「うん。見事にない」
「俺もいま帰ってきたところでさ〜。酒のんじゃってるんだよ。わりぃ。」
「そっか・・・でも、まぁ、なんとかするさ」
「おお」
「で、仙台なんだけど・・・どうするよ?」

(以下、省略)

携帯をバイブから着信音にし、駅のベンチに横たわる。

寝ちゃいかん・・・寝たら死ぬぞ・・・と思いつつも、いい感じで眠くなってくる。

最悪、朝までベンチもありか・・・。終電まであと4時間くらいだしな〜。でも、凍えて死ぬかな・・・こんなところで寝たら・・・。

まどろみ始めると、ママンから電話。

「お父さんいってくれるらしいから、そこで待ってなさい。ついたら電話するから」
「申し訳なし。すまんね〜」

・・・・・

ユサユサユサッ

「!!??」
「あんたこんなところにいたの?10分くらい探しまわっちゃったわよ。電話でないし」
「!!??」

ベンチで爆睡してしまいました。

うつむき加減で車に乗りこむ。

ママンがいたのにもびっくりしたが、何故かムクも一緒に車でつれられてきていた。そのムクの「どうしたの?ねぇ、どうしたの?」という純粋なまなざしが痛かった。

「ごめんね〜遠かった?」
「バカ、「遠かった?」じゃね〜よ。」
「・・・す、すんません」
城ヶ島のそばだよ、城ヶ島!」


浅草から1時間半で三浦海岸。思いもよらなかったよ・・・。


まどろみつつ、物思いに耽るおいらの後ろで見つめ続けるムク。

「ねぇ、どうしたの?ねぇねぇどうしたの?」

「話すと長いんだよ・・・」


追記
悔しいので、ナットク行くまでいろいろ調べてやった。

三浦海岸の位置
地図でみてもホント何もないのがよく分かる。

都営浅草線の時刻表
おいらが乗ったのは、23時12分の三浦海岸行きの特急。なんか、ロシアンルーレットで一発で死亡・・・みたいな感じだ。他のだったら、馬込とかで済んでいたのに・・・。

京浜急行の路線図
いや〜こんなに駅通り過ぎたのか〜。これで1時間半か。ちょとした小旅行や。

しかし、都営浅草線京急とつながっているとは・・・やっとナットク。